新潟市で住宅ライターをしている黒川遼と申します。
県内の設計事務所で7年ほど意匠設計のアシスタントをしたあと上京し、住宅系の専門誌で5年ほど取材と撮影のディレクションをしていました。
2021年に新潟へ戻り、いまは年間30件から40件の完成見学会やモデルハウスを実際に見て歩いています。

見学に同行した方から最初に聞かれる質問は、だいたい決まっています。
「この家、坪いくらですか」です。

気持ちはよく分かります。
数字がひとつあれば横に並べて比べられますし、予算に入るかどうかも一瞬で判断できそうに思えます。

ただ、私はこの質問にうまく答えられません。
答えたくないのではなく、答えたところで判断材料にならないからです。

この記事では、坪単価という数字が何を写していて、何を写していないのかを整理します。
そのうえで、新潟でハイエンドと呼ばれる価格帯の家になるほど、その数字が役に立たなくなる理由を書いていきます。

新潟で「ハイエンド」を名乗るページには、価格が書かれていない

県内の住宅会社のサイトを順番に見ていくと、はっきりした共通点があります。
上のグレードに行くほど、価格の表示が消えていくのです。

分かりやすいのがハーバーハウスです。
同社は20を超える商品の価格を公式サイトで公開しています。
たとえばベーシックプランのEXYは「自由設計×コミコミ価格 1,869万円〜(税込2,055.9万円〜)」と明記され、その金額に設計費・本体工事費・付帯工事費・住宅設備費用が含まれること、参考プランの延床面積が99.37平方メートル(30.05坪)であることまで書かれています。
月々の返済例には、金利の条件と借入額、当初5年の目安である旨まで注記されています。

ここまで開示している会社は、新潟県内では珍しい部類です。

ところが同じ会社でも、都市型邸宅のハイエンドモデルハウスと、最上位ブランドとして展開している「ハーベスト」のサイトには、金額がひとつも出てきません。

青山ホームも同じです。
Villa・Aira・Salaという3つのラインアップについて、断熱等性能等級6でHEAT20のG2水準、気密検査を2回実施してC値0.5±0.2、樹脂サッシのトリプルガラス、第1種換気システムと全館空調というように、仕様は驚くほど細かく開示しています。
それでいて、価格の記載は3商品ともありません。

これは隠しているというより、書けないのだと思います。
自由設計の幅が広くなるほど「◯万円から」という数字が実態から離れていくからです。

新潟のハイエンドな住まいを追いかけている書き手はほかにもいて、新潟のハイエンド住宅を紹介しているブログでは、万代の賃貸マンションやガレージ付きのモデルハウスが取り上げられています。
そちらでも紹介されているのは空間や設備の話で、価格の話はほとんど出てきません。
取材する側から見ても、この価格帯は数字で語りにくい領域なのです。

坪単価には、そもそも共通のルールがない

坪単価が比較の役に立たない理由は、単純です。
計算のしかたが会社ごとに違うからです。

坪単価は「家の本体価格 ÷ 面積」で計算します。
ところが、この式の分母も分子も、業界共通の決まりがありません。

分母の取り方だけで1割は動く

面積には延床面積と施工面積の2種類があります。
延床面積は各階の床面積の合計で、吹き抜けや2メートル以下のバルコニーは含まれません。
施工面積は玄関ポーチやバルコニー、車庫なども加えたもので、常に延床面積より大きくなります。

そして、施工面積には法的な定義がありません。
どこまで含めるかは会社の裁量です。

同じ建物で計算してみます。

建物価格割る面積坪単価
2,500万円延床120平方メートル(36.3坪)約68.9万円
2,500万円施工面積140平方メートル(42.4坪)約59.0万円

まったく同じ家、まったく同じ支払額で、坪単価は約10万円変わります。
安く見せたければ、分母を大きく取ればいいわけです。

分子に何を入れるかも会社任せ

分子である本体価格も同じです。
SUUMOに掲載されている一級建築士の佐川旭氏監修の解説記事「坪単価とは?坪単価の平均は?」では、坪単価の出し方に共通のルールがないことがはっきり書かれています。
照明器具やエアコン、電気やガスの屋外配管の費用を本体価格に含めている会社もあれば、含めていない会社もある、と指摘されています。

つまり坪単価は、家の価値を表す数字ではありません。
その会社がどこまでを本体と呼び、どこまでを面積と数えるかという、社内の慣習を表した数字です。

慣習が違う会社同士の数字を並べても、比較にはなりません。

新潟で実際に建てた人の数字を見てみる

では、実際に建てた人はいくら払っているのか。
ここは推測ではなく公的な統計で見たほうが早いので、住宅金融支援機構の2025年度フラット35利用者調査から新潟県のデータを拾いました。
2025年4月から2026年3月までに承認された案件を集計したもので、2026年7月に公表されています。

項目新潟県全国
集計件数76件3,886件
建設費(平均)4,100.2万円4,259.1万円
建設費(中央値)3,923万円3,900万円
住宅面積(平均)116.1平方メートル118.4平方メートル
1平方メートル当たり建設費36.5万円35.9万円
敷地面積(平均)353.9平方メートル326.6平方メートル

1平方メートル当たり36.5万円を坪に換算すると、約120万円になります。

ここで注意が必要です。
この調査でいう「建設費」には、主体工事費だけでなく、電気・給排水・ガスの設備工事費、設計費、工事監理費、屋外附帯工事費まで含まれています。
面積のほうはバルコニーを除いた専有面積です。

住宅会社が広告に出す坪単価は、本体工事費を施工面積で割ったものが多くなります。
分子はより小さく、分母はより大きい。
「新潟の相場は坪120万円らしい」と「うちは坪65万円です」が同時に成立してしまうのは、そもそも別のものを計算しているからです。

分布も見ておきます。
新潟県の76件のうち、建設費5,000万円以上が13件で17.1パーセント、6,000万円以上が7件で9.2パーセントでした。
新潟でも6件から7件に1件は5,000万円を超えるゾーンで建てている計算になります。

ただし、この76件はフラット35を使って注文住宅を建てた人に限られます。
現金比率の高い層や、別の融資を選んだ層は入っていません。
新潟県全体の平均ではない点は、正直に押さえておいてください。

単価は上がり、家は小さくなっている

もうひとつ、坪単価だけを見ていると絶対に気づけない変化があります。
住宅生産団体連合会の戸建注文住宅の顧客実態調査の2024年度版から、10年分の推移を並べます。

年度建築費単価延床面積
2015年度25.4万円/平方メートル(約84万円/坪)132.4平方メートル
2020年度30.1万円/平方メートル(約99万円/坪)126.8平方メートル
2024年度38.8万円/平方メートル(約128万円/坪)122.5平方メートル

単価は10年で約52.8パーセント上がりました。
そのあいだに、家は7.5パーセント小さくなっています。

同じ調査で、2024年度の建築費は平均4,760万円、土地代を加えた住宅取得費は7,006万円と報告されています。
単価の上昇分をすべて予算に乗せるのではなく、面積を削って吸収している。
報告書自身も、延床面積を抑えながら自己資金と借入金を増やして対処していると分析しています。

なお、この調査は主要都市圏が対象で、回答の9割以上が住団連の会員企業、つまり大手ハウスメーカーの顧客です。
新潟の地場工務店で建てた層とは条件が違います。
金額そのものより、単価と面積が逆方向に動いているという傾向のほうを見てください。

坪単価が上がったことは、家が良くなったことも悪くなったことも意味しません。
ただ、坪単価という数字だけを追いかけていると、家が小さくなっている事実は見えないままです。

新潟という土地が価格に乗せてくるもの

新潟で建てる場合、図面や写真では見えないところにコストが乗ります。
その最たるものが雪です。

屋根が支えなければならない重さ

新潟市は市の全域を多雪区域として指定しています。
新潟市が公開している積雪荷重・凍結深度についてによれば、積雪の単位重量は積雪量1センチメートルごとに1平方メートルにつき30ニュートン以上と定められています。

そのうえで、区域ごとに見込むべき垂直積雪量が決められています。

  • 中央区・東区・西区の全域は100センチメートル
  • 北区や江南区、南区は区域によって100センチメートルから120センチメートル
  • 秋葉区の一部は130センチメートル

中央区の100センチメートルで計算すると、屋根1平方メートルあたり3,000ニュートン、重さにしておよそ306キログラムを見込んだ構造にしなければなりません。
畳半分ほどの面積に、大人4人が乗り続けている状態を想定するということです。

積雪を考えない地域と同じ骨組みでは成立しません。
柱も梁も基礎も、そのぶん強くする必要があります。
そして、この費用は完成した家を見ても分からないところに消えていきます。

大開口のインナーガレージや大きな吹き抜けを持つ家が新潟で高くなりやすいのは、意匠が凝っているからというより、その空間を雪の重さのもとで成立させるための構造にコストがかかるからです。

断熱については、誤解されがちな点があります

「新潟は寒いから断熱の基準が厳しい」と言われることがありますが、これは正確ではありません。
国が定める省エネ基準の地域区分では、新潟市は5地域にあたります。
断熱性能を示すUA値の基準値は、5地域と東京などの6地域で同じ値が設定されています。
基準が一段厳しくなるのは、県内では魚沼市や十日町市などの4地域以下の市町村です。

つまり、新潟市で高い断熱性能を確保している家は、基準に合わせているのではなく、基準を超えて自分たちで積んでいます。
先ほどの青山ホームのVillaが断熱等性能等級6を掲げているのは、そういう位置づけの投資です。

この投資も、坪単価という数字の中では等級5の家と区別がつきません。

見積もりを見るときに私が確認していること

坪単価を聞く代わりに、私が住宅会社に確認しているのは次の点です。

  • その金額に含まれていないものを、項目名で挙げてもらう(照明、カーテン、エアコン、屋外配管、外構、地盤改良)
  • 割った面積が延床面積なのか施工面積なのかを確認する
  • 提示されたプランの延床面積と総額を聞き、坪単価は自分で割って出す
  • 断熱等性能等級と耐震等級を、等級の数字で答えてもらう
  • 多雪仕様や寒冷地仕様で価格が変わるエリアかどうかを聞く

最後の項目は新潟では特に効きます。
ハーバーハウスが公開している価格にも、燕三条・長岡・上越エリアは多雪仕様となり価格は各支店に問い合わせるよう注記が入っています。
同じ商品でも、建てる場所によって金額が変わるという事実が、そこに書かれているわけです。

聞き方としては、「坪いくらですか」ではなく「この見積もりに入っていないものを教えてください」のほうが、はるかに多くの情報が返ってきます。
まともな会社ほど、この質問には具体的に答えてくれます。
言い淀む場合は、そこが判断材料になります。

まとめ

坪単価は、比較のための数字として設計されていません。
分母も分子も会社ごとに違い、面積が大きい家ほど単価は下がり、雪や断熱のように外から見えない部分の投資は数字に表れません。

新潟でハイエンドと呼ばれる価格帯になると、この傾向はさらに強くなります。
実際、県内の住宅会社のサイトを見ても、上のグレードほど価格の表示は消えていきます。
数字で語れない領域だという業界側の自覚が、そのまま表れているのだと思います。

比べるべきなのは単価ではなく、総額と、その総額に何が入っているかです。
面倒に見えますが、確認する項目は10もありません。

家づくりの打ち合わせは長く続きます。
最初の段階で数字の読み方を握っておくと、後半で不意に金額が動いたときにも、何が起きているのかを自分で説明できるようになります。
その差はかなり大きいと、これまで見てきた現場から感じています。